Camping Mandala, Prads-Haute-Bléone, France
ワーキングホリデービザを取得し、2009年の年末から1年間フランスに滞在していた私の一番の目的は、自然の中の小さな村での暮らしを体験することだった。出発前にWWOOFという制度を知り、いくつかのホストの元で滞在させてもらうことにした。WWOOFは30€くらいの支払いを済ませてから、地方ごとに分かれたホストのリストをHPで閲覧して、直接メールなどでコンタクトを取る仕組みで、日程が決まれば、指定の場所でホストにピックアップしてもらい、滞在先まで辿り着く。リストには写真がなく、フランス語か英語の文章だけなので、最終的には直感で決めるしかない。
夫の匡章は私よりも前に料理の経験を積むためにフランスに滞在していて、私が語学学校に通うために初めの数ヶ月を過ごすことに選んだ街・モンペリエで早々に出会った。その後すぐにお付き合いが始まったわけではなく、数ヶ月が経ってしまったので、当初の予定のWWOOFを始めるまで時間がかかってしまった。関係が落ち着いた頃にやっと一度離れて、それぞれ別の場所での滞在をすることにした。彼もレストランでばかり働くよりも面白そうだし、家庭料理を食べてみたいと言って同時期にファームやオリーブオイル作りやワイン作りの体験のために旅立った。
初めてのWWOOF先として、南アルプスの麓の小さな村にあるキャンプ場に決めた。7月後半から8月前半だったと思う。山に囲まれた壮大な景色に身を置き、フランス人のイヴァンとドイツ人のニナ夫婦と2人の娘さんがいる場所で2週間滞在した。キャンプ場にはゲスト用の山小屋とyourte(モンゴルのテント)がいくつかあり、イヴァンはヨガを教えているため、真ん中の大きなyourteがヨガクラスに使われていた。ちょうどヴァカンスシーズンだったので、親戚が交代で訪れるタイミングが重なり、毎日がとても賑やかで濃密だった。
私は一棟の山小屋に泊まらせてもらい、朝はゲストのための朝食やランチの準備を手伝ったり、宿泊小屋やシャワー小屋の掃除をするのが仕事だった。それはほとんど午前中には終わってしまうので、何かすることはない?と尋ねると大体、リラックスしてゆっくりしていてと言われたり、ゲストと一緒に森のガイドツアーに行っておいでと送り出してくれた。毎日が贅沢な子供時代の夏休みのような過ごし方だった。ある日は大きなセコイヤの木に登ったり、ホストのニナとワンちゃんと一緒に川上りをして、先に向かった親戚たちを追いかけてアルプスの山を満喫した。
夕飯時には、イヴァンと親戚の皆がワインを片手にずっと立ったままお喋りをしている。19時頃から集まって食卓に落ち着くまでには2時間くらい?大袈裟かもしれないけど、そんな体感だった。ドイツ人のニナは、日本は何時に食べ始める?と聞いてきた。18時くらいかなと私は答えた。ドイツも!と同意していた。今、あの時間を思い出すと微笑ましい。仲間に入れてくれてありがとう、と思う。
イヴァンとニナの娘さんたちは、私の滞在前半はドイツのおばあちゃんの所に行っていたので不在だった。彼女たちに出会う前に仲良くなった、隣のおうちのムイという5歳の女の子と毎日のように遊んでいた。活発で寂しがりやで可愛い子。
スリヤとマヤという2人の娘さんが帰ってきて、さらに賑やかになって可愛い光景が増えた。
ニナたちとチーズ製造販売と養蜂をしている山の上の工房へ。その後は山歩き。
天国のような場所。
写真を整理していると、私が触れた人たちの話し声と共に滞在の記憶が一気に蘇る。もう12年も前のこと。確かにあそこに居たんだと思い出す。皆んなの楽しい表情も家族を思う心配や不安の表情も、小さな可愛い怒りの表情も。全部が私が見た大切な景色の一つ。
https://www.camping-mandala.fr/
text & photo Hisayo